終了宇宙での生活×社会課題を考えるワークショップ
主催者:一般社団法人 社会デザイン・ビジネスラボ
2022年12月7日、「宇宙での生活×社会課題を考えるワークショップ」を開催しました。
今回は、宇宙ビジネス共創プロジェクト X-NIHONBASHIに会場協力をいただき、参加者が実際に対面するオフライン形式での開催となりました。
今回のアイデアワークショップは、宇宙での生活と地上での社会課題解決を同時に考えることで、新たなビジネスアイデアを生み出すことを目的に開催しました。
宇宙ビジネスと社会課題解決は一見すると離れたテーマのように思われるかもしれませんが、両者を同時に考えることで将来的に宇宙空間と地上の両方で役立つアイデアが生まれるなど、相互作用的に新たな発想が生まれることを狙っています。
講演とインプットトークを通して参加者に事前情報とアイデアワークショップの趣旨を提示し、4つのチームに分かれてワークショップに取り組みました。
当日は宇宙産業に携わっている方々や、社会課題解決型のビジネス創出に興味がある方々、合計20名超の方にお申し込みいただきました。
参加者同士が実際に顔を合わせられたということもあって、終始会話が弾んだ和やかな空気感のイベントとなりました。
主催者挨拶
挨拶の後、法政大学経済学部 化学教授 山﨑友紀氏より「宇宙から考える 地球で活かす水や資源の循環」という演題での講演がありました。
山﨑氏はイベント当日、アメリカに滞在中だったためリモートで参加いただきました。
地球は、奇跡的に熱やさまざまなエネルギーの収支バランスが取れている惑星です。
一方で地球全体での人口が増え続けているために、地球温暖化などの環境問題、社会問題が発生しています。
そのため、これからの時代、人類が宇宙で暮らすことを現実的に考えなければならないでしょう。 人類が宇宙で暮らすためには、生存に必要な空気や食べ物、エネルギーを宇宙で調達する必要が出てきます。
例えば、宇宙で水をどのように調達するかについて考えてみましょう。国際宇宙ステーション(以下、ISS)まで水を1キログラム運ぶための費用は、おおよそ100万円かかります。月まで運送するためには1億円必要とすら言われているのです。
そのため、水は地球から輸送するだけでなく、宇宙で調達する必要があります。
その水を調達する手段の一つが、水の浄化です。
現在、さまざまな科学技術を用いて水を浄化させ、再利用することが可能になっていて、すでにISSでは尿を含めた水の93%が再生されています。
では、食べ物はどのように調達すれば良いのでしょうか。
地上でも一部の植物については土を用いないスマート農法がすでに確立されています。無重力空間での栽培実験も進んでおり、宇宙における植物・野菜の栽培も不可能ではありません。
しかし一般的な穀物については、土や土の中の微生物が栽培に必須です。光や水も不可欠と言えます。
タンパク質も、人工肉を製造する技術は未熟です。結局、土を含めた生態系を宇宙に持ち出す必要があります
一方、現代の地球における社会問題を考えてみましょう。
現代の地球では、水や土壌の汚染、生態系の崩壊、プラスチック問題など数多くの社会問題を抱えています。
水の浄化については、下水を飲み水にすることすら可能です。
ゴミについても、技術的には現在すでにほぼ100%のリサイクルが可能になりました。
しかし、水の汚染が進み、ゴミはそのまま埋め立てられ、土壌が汚染されているというのが現実です。
つまり、循環型社会の実現のためには技術以外にも必要な観点があるのです。
現在、少しずつ再生可能エネルギーを用いるようになっていますが、輸入された燃料を元にした火力発電が我が国の中心であることに変わりはありません。そして、二酸化炭素が多く排出されることによって、地球温暖化が一層進行していきます。
気候変動や異常気象、昨今ではパンデミックなどのリスク要因によって労働市場の不均衡、デジタルや教育、技能の格差がさらに広がり、世界の分断が深まっているのが現状です。
このような世界の格差を少なくするためには、環境問題を解決しなければなりません。
そして、環境問題の解決のために、循環型社会の早急な実現が求められているのです。
循環型社会の実現は、将来的な宇宙での生活だけでなく、現在の私たちにとっても重要な課題だと言えるでしょう。
それでは、果たして現実的に循環型社会の実現は可能なのでしょうか。
資源の再利用、つまりリサイクルは理想的ではありますが、リサイクルにも環境負荷が伴うことを忘れてはいけません。水や大気の循環も同様です。
長期的な持続性のある循環型社会を構築するためには、経済性も合わせて考える必要があります。
人間がこれからも地球上で生存し続け、そして宇宙で生活するためには、人類の英知を集めながら、持続性まで考慮した循環型社会の構築にチャレンジしていかなければならないでしょう。
インプットトーク・全体説明
講演に続き、株式会社JSOL 法人ビジネスイノベーション事業本部の秋本敏樹による「宇宙での生活と社会課題解決のつながり」と題したインプットトークに移りました。
講演でも「宇宙での生活と、現在の社会課題には共通点がある」という話がありました。
ワークショップを行うにあたり、宇宙での生活と社会課題を同時に考えることの意義を補足して解説させていただきます。
一見、社会課題と宇宙生活はつながりが無いように思えます。
しかし、社会課題の解決策を考えるためには、既存のコストパフォーマンスに捉われたありきたりなアイデアだけでなく、飛躍的な発想が時として必要となります。
リアリティを持って「宇宙で暮らすためには何が必要か、どんな課題があるか」を考えることが、思考を拡張させるヒントになり得るのではないでしょうか。
また、宇宙での生活をより充実させるためには、技術面の向上だけでなくサービス部分の事業展開も必要となります。
このように、社会課題を考えている層が宇宙事業も一緒に考えることで、事業アイデアの裾野が広がっていく狙いもあるでしょう。
宇宙での暮らしを思考するための足掛かりとして、現在の宇宙移住計画や展望について少しご紹介しましょう。
人類が宇宙で生活するというとSFのように感じられる方もいらっしゃるかもしれませんが、アルテミス計画をはじめとした月面開発の計画は今まさに実行されていますし、ある計画では2030年代に数十人規模、2040年に数百人規模の人が月面で生活することを考えているものもあります。
宇宙で暮らすということは、宇宙で労働を行うことになります。
宇宙での社会生活が長期、かつ大規模になればなるほど、衣食住に関わる職業以外にも、リラクゼーションや医療、運輸に関わる職業など、地上と変わらない職種が必要となるでしょう。
地上と同じ職業だけでなく、宇宙ならではの職業も発生するはずです。
さらに生活に必要な資材やエネルギーについては、コスト面を考えれば現地調達も必須となります。
ハード面として宇宙で資材調達できる技術を開発しなければならないのはもちろんですが、生活規模が大きくなればなるほど、ソフト面であるサービス部分についても真剣に考えなければなりません。
「月面での循環型居住空間」と「地球上でどこでも快適に暮らせる空間」を同時 に実現する小型機能ユニットを構想している取り組みもあります。
この小型ユニットは月面の生活に必要な機能がコンパクトにまとめられていますが、これは将来的には過疎地域の住まいとして応用できるものではないでしょうか。
また、移動南極基地というプロジェクトも始動しています。南極という地上の極地のために開発された技術は、月面でも活用できるものと考えられます。
このように、現在の地球での技術やサービスは宇宙での生活にも応用ができ、将来の技術とサービスを考えるきっかけになるという意味で、宇宙事業と現在の我々の生活とは関連していると言えるのです。
これからのワークショップでは自分たちの現在の事業や活動を基にしながら、宇宙生活で必要なサービスへのアプローチを考えたり、宇宙での生活を考えることで社会課題への解決策を見出したりしてもらえれば幸いです。
インプットトーク後、グループごとにチームビルディングと自己紹介を行い、ワークショップを行いました。
ワークショップ
今回のイベントには、すでに宇宙事業について知識を持つ多くの方が参加されていました。
そのため、“宇宙での生活”と“社会課題”という一見つながりの見えないテーマでありながら、参加者それぞれが具体的なキーワードを持ち、そこからアイデアを生み出すことが可能に。
対面でのディスカッションイベントということもあって、それぞれの専門分野についての知識を交換しながら、和やかな雰囲気で進行することができました。
アイデア共有
まとめ
・宇宙での生活を想定したキャンプを行い、自分の持参した食料とその残りを利用する体験などをしてもらう
・マイ衛星を持ってマッチングシステムなどに利用する
・メタバース空間を構築し、惑星規模で離れた人たちでも交流できるように。さらにメタバース空間を利用すれば、廃棄物食や昆虫食といった食べづらい印象のある食品も食べやすくなるのでは
・宇宙ステーションでサーカディアンリズムを再現し、健康維持や精神安定に役立てる
実際に出たアイデアの一部です。
現在ある技術を活かしながら斬新なアイデアが多く発表されました。
グラフィックレコード
石原さんのコメント「宇宙と地球は遠いものだと思っていました。しかし、アイデア共有で出たマイ衛星やメタ家族などのアイデアを聞くと、すでに宇宙に行くことも難しいことではないのだと感じました。特に多くのチームでメタバースの利用について触れられていたのですが、メタバースを用いることで宇宙と現在がより近いものになるのだと実感しています。自分の生活とも案外共通点があり、とても興味深かったです」